学究:高嶋米峰(53)関連史料[52]

前回同様、朝日新聞掲載分から確認していきたいと思います。

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68.1926年(大正15年) 3月 10日 「世相は動く 成年とは何歳か 娼妓取締規則の改正に就て【下】 高島米峰

全文引用↓

「二種ならまだしもだが、二種でとどまらないから、ますます疑問が大きくなる。それは、日本には娼妓取締規則といふものがあつて……實に世界の汚辱だ……十八歳以上の女性は、娼妓として、人肉に市を展開することが出來ることになつて居る。そこで、日本の政府は、この娼妓取締規則維持のために、千九百二十一年九月三十日の、婦人兒童の賣買禁止に關する國際條約に對し、その最終議定書(ロ)項に規定せられた、年齢制限二十一歳といふのを、十八歳にして置いて欲しいといふことを通告したのである。(この國際條約に留保條件を付したのは、世界中に日本とシヤムとだけである。)
 それもよいとして、何故に、かかる留保條件を付したかといふ理由の一つとして日本の女性は、滿十八歳にして身心共に發育が十分だからといふのである。身心の發育が十分だといふのは、人間としての、能力を備へて居るといふことである。民法では滿二十歳で一人前の人間として認められない日本の女性も、娼妓取締規則だけでは、滿十八歳で、一人前の人間として認められるといふのである。誠に光榮の至りではないか。
 そこで、くどいやうだが、吾々の實際生活の上では、男性は、二十歳も成年だ、三十歳も成年だといふことになり女性は十八歳も成年だ、二十歳も成年だ、そして、何歳になつても成年とは言へないといふ妙なことになる。
 拙者の愚問の要點はこれだ。
 成程なア。
 理屈はいろいろあらうが、兎も角、成年が幾種類もあるといふのは、變なものだ。と言つて、すべてを現行娼妓取締規則に準じて、男女とも、滿十八歳を以て、成年とする譯にはゆかない。結局、民法の、滿二十歳を以て成年とするといふのに、統一するより外はあるまい。但し婦人賣買の如き人道上の問題は、必ずしも、成年未成年を以て、論ずべきではない。それは絶對禁止を理想とすべきであつて、世界がさしあたり、廿一歳とするとならば、日本もまた當然廿一歳とすべきこと、もとより言ふまでもない。
 かくて、二十歳台の代議士……男のも女のも……が、議場に少からずイスを占め得るやうになつたら、どんなにか、帝國議會といふものが、浄化せられることであらう。(大正一五、二、二八)」

 ⇒この記事は、前回のブログ(⇒学究:高嶋米峰(52)関連史料[51] - 学究ブログ(思想好きのぬたば))で紹介した記事(1926年(大正15年) 3月 9日 「世相は動く 成年とは何歳か 娼妓取締規則の改正に就て【上】 高島米峰」)の続きである。まだお読みでない方は、ぜひ前回のブログを確認してみてください。

 記事の冒頭にある「二種」とは何か?。それは「成年」を規定する法律2つのことである。その「法律2つ」とは、民法普通選挙法(高嶋米峰は「不通選挙法」とよぶ)。高嶋は上記の二法律に加えて、「成年」の定義を曖昧にする法律として、18歳から女性を娼妓として働かせることができる「娼妓取締規則」を取り上げて、批判を加えている。「日本は「婦人児童の売買禁止に関する国際条約」に定められた年齢制限21歳を、自国の「娼妓取締規則」の年齢制限18歳に合わせるために、留保条件を示した国である」⇒この事実には驚かされる。

 上記の留保条件を、なぜ日本政府は提出したのか?。政府は、女性は満18歳になれば身心ともに発育が十分になるから、と見解を示す。これに対して高嶋は、民法では満20歳で一人前の人間(成年)とされるのに、娼妓取締規則だけでは満18歳と規定されているのはどういうことか、と疑問を呈している。

 以上の事から日本では、「成年」を規定する年齢が、満20歳、満25歳、満18歳……と定まっていないといえる。

 高嶋は、「成年」を考える上では民法における満20歳を採用し、満18歳という規定を示す「娼妓取締規則」については、そもそも「婦人売買」という行為自体に問題があるのではないかという疑問を前提に、せめて国際規定の「満21歳」を護るべきだと主張する。そして最後に、「帝国議会」に若き男女の代議士の姿が見られるようになることを願い、本稿は閉じられている。

 

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